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東京高等裁判所 昭和30年(ナ)1号 判決 1955年6月28日

原告 村松勝太郎

被告 田原村選挙管理委員会・静岡県選挙管理委員会

主文

被告静岡県磐田郡田原村選挙管理委員会に対する原告の訴を却下する。

被告静岡県選挙管理委員会に対する原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「昭和二十九年九月三日執行の静岡県磐田郡田原村議会議員及び同村長の選挙の効力に関する原告の訴願に対し、被告静岡県選挙管理委員会(以下県選管と略称する。)が昭和二十九年十二月二十日附裁決書を以てなした裁決を取消す。右選挙の効力に関する原告の異議申立に対し、被告静岡県磐田郡田原村選挙管理委員会(以下村選管と略称する。)が昭和二十九年九月二十九日附決定書を以てなした決定を取消す。右選挙を無効とする。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

昭和二十九年九月三日静岡県磐田郡田原村議会議員選挙及び同村長選挙が執行され、村議会議員十六名及び村長一名が当選し、原告は、右選挙の選挙人であり、同時にまた村長の候補者であつたが右各選挙は、被告村選管の管理の下になされたものでないから違法のものである。また被告村選管は、原告が同年八月三十一日に公職選挙法第三十四条第三項の異議の申立をしたのにかゝわらず、同項により選挙の執行を停止せず、之に対する決定が確定しないまま右選挙を執行した。よつて原告は被告村選管に対し、右選挙の効力に関する異議の申立をしたところ、同被告は同年九月二十九日附決定書を以て右異議申立を棄却する旨の決定をしたから、原告は被告県選管に対し右決定の取消を求める為訴願を提起し、同被告は之を同年十月七日に受理し、同年十二月二十日附裁決書を以て訴願人の請求を棄却する旨の裁決をした。然しながら右決定及び裁決は何れも原告の正当な請求を不当に排斥した失当のものである。尚公職選挙法第二百十三条によれば、訴願の裁決はその受理の日から六十日以内に之をするよう努めなければならないこととなつているのに、被告県選管は、前記の通り、右期間経過後に前記裁決を行つたのであるから、右裁決は右公職選挙法の規定に違反しているのみならず、地方自治法第百八十一条によれば、選挙管理委員会は都道府県にあつては五人の選挙管理委員を以て組織することを要することとなつているのに、前記裁決は三名以上が出席し合議の上行われたものであるから、右地方自治法の規定にも違反している。よつて原告は被告等に対し夫々前記決定及び裁決の取消を求め、且前記各選挙無効の判決を求める為本訴に及んだ。と述べた。(立証省略)

被告村選管の指定代理人は、先ず同被告に対する原告の訴を却下するとの判決を求め、その理由として、本件田原村議会議員及び同村長の選挙の効力に関する訴は、公職選挙法第二百三条の趣旨に徴し、被告県選管に限り之を相手方として提起すべきであつて、被告村選管をその相手方とすべきものではないから同被告に対する本件訴は不適法のものとして却下せらるべきである、と述べ、

本案につき、被告等の各指定代理人はいずれも、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因事実中、昭和二十九年九月三日に静岡県磐田郡田原村議会議員選挙及び同村長選挙が執行せられ、村議会議員十六名及び村長一名が夫々当選したことゝ原告が右選挙の選挙人であり、また村長の候補者であつたこと、原告がその主張通り被告村選管に対し右選挙の効力に関する異議申立をし、同被告が原告主張通り右異議申立を棄却する旨の決定をしたこと、原告が被告県選管に対し右決定の取消を求める訴願を提起し、同被告が之を同年十月七日に受理し、同年十二月二十日原告主張通り右請求を棄却する旨の裁決をしたことはこれを認め、その余の事実を否認する。被告県選管が昭和二十九年十月五日に受理した原告提起の訴願は不適式のものであつたから、同被告は原告をして之を補正させる為同年十一月一日に一旦訴願書を原告に還付し、原告は之を補正した上、同月十三日に再提出したのであり、このような場合公職選挙法第二百十三条所定の六十日の期間は右再提出の時から起算すべきであり、この起算方法に従えば前起裁決は右六十日の期間内になされた適法のものであることが明らかである。又仮に右期間を昭和二十九年十月五日から起算すべきものとしても、右公職選挙法第二百十三条は単に同条所定の期間内に裁決をするよう努力すべき旨を規定したに過ぎないのであるから、同被告が右努力を怠らなかつた以上、本件に於けるがごとく、右期間を多少経過しても裁決の効力に影響がないものと解すべきである。尚原告主張の地方自治法第百八十一条による都道府県選挙管理委員会の必要委員数五人は四人の誤であるところ、前記裁決に当り被告県選管では四人の管理委員の全員が出席して之を行つたのであるから、右裁決には原告主張のような不適法の点はない。

と述べた。(立証省略)

理由

被告村選管に対する本訴の適否につき審案するに、本件に於けるがごとく市町村選挙管理委員会に対し公職選挙法第二百二条所定の選挙の効力に関する異議の申立がなされ、之に対する同委員会の決定がなされた後、この決定に対し都道府県選挙管理委員会に訴願が提起されたときは、その訴願に対する同選挙管理委員会の裁決がなされた後は勿論、未だ裁決がなされずして現に右訴願が同委員会に繋属中である場合に於ても、右市町村選挙管理委員会の決定に対し、直接公職選挙法第二百三条による不服の訴は之を提起することができないものと解さなければならない。何となればすでに右決定に対し訴願が提起された以上、之に対する裁決及び更に右裁決に対する不服の訴の裁判により、右決定の判断を是正する道が開かれているのであるから、之と別個に、直接右決定に対する不服の訴を提起することを得させることは不必要であるばかりでなく、もし之を許すときはこの訴に対する裁判と訴願の裁決とが抵触することも起るべく、そのような場合には法律関係の混乱を来すに至るべく、公職選挙法がこのような不都合な結果を容認しているものとは到底解することができないからである。然らば本件記録上明らかな通り被告村選管のした決定に対する訴願の裁決が存し、現に県選管を本訴の相被告として右裁決に対する不服の訴が提起されている以上、被告村選管に対し右決定の取消及び選挙無効の裁判を求める本件訴は、不適法のものとして之を却下しなければならない。

次に被告県選管に対する本訴請求の当否につき審案するに、静岡県磐田郡田原村議会議員選挙及び同村長選挙が昭和二十九年九月三日に執行され、村議会議員十六名及び村長一名が、それぞれ当選したことは当事者間に争がなく、その成立に争のない甲第二号証、証人鈴木善一の証言によつて真正に成立したものと認める乙第一号証及び証人鈴木善一の証言によれば、右選挙は、被告村選管の管理の下に行われたものであることを認めるに十分であつてこの点に関する原告の主張は採用することができない。

次でその成立に争のない甲第一、二号証の記載及び本件弁論の全趣旨に徴すれば、原告は、右選挙期日の直前にあたる同年八月三十一日被告村選管に対し、同選挙について、選挙期日の告示、補充選挙人名簿の調製縦覧等に関する告示が、選挙の規定に違反することを理由として異議の申立をなしたことが認められる。原告は右異議の申立は公職選挙法第三十四条第三項にいう異議の申立であるから、異議の決定が確定しない間は、本件選挙を行つてはならなかつたと主張するが、同項にいう異議は、「その選挙を必要とするに至つた選挙について」、すなわち本件選挙に先立つて行われた選挙について申し立てられたものであつて、本件選挙についてなされた異議をいうものでないことは同法文上明白であり、また同異議は、選挙の執行後一定の期間内に、選挙そのものの効力を争つてなすものであつて、選挙期日の告示、補充選挙人名簿の調製等に関する告示等選挙の管理に関する一連の行為の個々について、しかも選挙の執行中になす不服の申立の如きものを含まないことは、同項及び同法第二百二条、第二百五条、第二百十四条の法意によつて明白である。してみれば、被告村選管が原告の前記認定にかゝる異議の申立にかゝわらず、選挙を行つたとしても、選挙の規定に違反したものということはできない。

又原告は被告県選管が訴願受理の日たる昭和二十九年十月七日から公職選挙法第二百十三条所定の六十日の期間経過後たる同年十二月二十日に裁決をしたのであるから右裁決は違法のものである旨主張するけれども、公職選挙法第二百十三条は選挙に関する争訟をできるだけ迅速に処理させんが為の訓示規定に外ならないことその文理上明らかであるから、仮に原告主張の通り本件に於て右期間の起算点を右昭和二十九年十月七日とすべきものとしても、右裁決が訴願受理の日から六十日経過後になされたが為に裁決の効力に何等の影響をも及ぼさないものと解すべく、従つて右裁決が右六十日以内になされなかつた為取消さるべきものとする原告の主張も之を認容することができない。なおまた、選挙管理委員会は都道府県にあつては四人の選挙管理委員を以つてこれを組織し、委員三人以上が出席しなければ会議を開くことができないことは、地方自治法第百八十一条、第百八十九条第一項の規定するところであるが、被告県選管が本件裁決をなすに少くとも三名以上が出席し会議をしたものであることは、原告自身主張するところであるから、この点に関する原告の主張も採用することができない。

然らば原告が被告県選管に対する本訴請求原因として主張するところはすべてその理由がないものであるから、同被告に対する請求は排斥を免れないものと言わなければならない。

よつて民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 原増司 菅野次郎 高井常太郎)

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